Tomohiro Amemiya's OHP
RESEARCH 1
メタマテリアルフォトニクス
物質の性質を考え,新しい性質を有する材料を作り出すことは,人々の生活のあらゆる場面に寄与する極めて重要な研究であるといえます。メタマテリアルの研究とは,いわばその究極系であり,物質の‘誘電率’と‘透磁率’を自在にコントロールすることで,あらゆる性質を持った材料を生み出すことを目的としています。
メタマテリアルの正体は,「金属で構成された微細構造の集合体」であり,構成要素となるナノ構造をうまくデザインすることで,所望の特性を有する光学材料を実現できます。現在までのメタマテリアルの研究は,物質固有の誘電率・透磁率の値を人工的に変化させることを目的としたものが多く,材料研究としての側面が強いといえます。そのようなメタマテリアルの次のステップとは,それらを実際に光デバイスに応用することで,メタマテリアルでしかできない機能を実現させることにあります。光デバイスは「導波光学」と「空間光学」という二つの大きな体系に分けられるますが,それぞれに対してメタマテリアルの応用を目指しております。
「導波光学」は,主に光通信デバイス用途で用いられますが,メタマテリアルによる‘透磁率’の変化は,既存技術の枠組みを超えた素子を実現可能となります。導波光学をベースとした光導波路デバイスのメタマテリアルの可能性として最も単純かつ有望なのは,透磁率の変化に伴う高い屈折率変化に着目することです。これを利用することで,従来素子の高性能化とスケールダウンを図ることが可能になります。また,メタマテリアルによる透磁率の急峻な波長分散を利用することで,光導波路内においてスローライト効果や光トラップ現象を発現させることも可能となります。
「空間光学」は,主にイメージング用途で用いられますが,メタマテリアルによる特殊な電磁波の制御は,既存技術の枠組みを超えた新しい技術を提供します。特に,迷彩技術(迂回・遮蔽など電磁波の空間的制御を行う技術)は最もホットなトピックの一つであり,それに向けたツールとして,メタマテリアルを内包した有機薄膜フィルム(メタマテリアルフィルム)を開発しております。これを用いることで,予めフィルム内に特定の誘電率と透磁率分布を持つようにメタマテリアルを内包させておき,それを ‘対象物に巻き付けるだけ’ で光学迷彩を実現することが可能となります。
はじめに
光電子デバイスの研究は、社会的要求の高い大容量・高速の光通信・光情報処理システムの発展を支えるために、必要かつ不可欠なものです。とくに将来へ向けての光集積システム技術に関する分野は、我が国をはじめとして世界中の研究者が集まる非常にホットな領域で、それ相応の高度な結果が要求される傾向にあります。このような背景と合せて、研究成果がそのままダイレクトに製品化へ繋がり易いことから、研究成果の報告も各国の企業や大学コンソーシアム等の大研究機関が中心です。
このような比較的大きな研究機関と素子性能を直接競っていくことはかなり難しく、大学の特徴を生かし、企業やコンソーシアムではできないような全く新しいコンセプトに基づいた研究を中心に据えることを目指しております。新しい原理の機能とナノ構造を利用した(そして企業では性能面・コスト面などから研究対象になることが難しい)次世代の光デバイス・光現象を考案し、その可能性と実用性を立証するような、大学でなければできない研究を追及することを常に考えております。
現代の研究(特に大学に望まれるような基礎研究)は昔と違って、無数に枝分かれしており、星の数ほどの研究テーマが世の中に溢れています。このような現状、かつ、一分野の技術も成熟した状況においては、異なる分野を繋ぐことによって思いもかけなかったことを生み出すことにこそ、ブレイクスルーがあります。しかし、一人が一生に学ぶことのできる研究範囲というものは、どんなに時間を有効に使ったとしても、残念ながらある程度限られており、そういった意味で、異なる分野を専攻する者同士が集まり、互いの知識を持ち寄って行う共同研究は非常に魅力的です。そのようなことから、研究推進にあたって、できるだけ多くの研究機関とともに歩んでいます。また、産業界が求めている人材として、そして現在の日本を支える人材として、理工学系の学生さん達は中心的な存在です。そのような学生さんと共に、日々、様々なことを探求・解明していければよいと考えております。
RESEARCH 2
トポロジカルフォトニクス
従来の波長多重方式に加えて,近年,光の二つの自由度(偏波と光渦)を積極的に利用した伝送方式に多くの注目が集まっています。特に,光の軌道角運動量にあたる光渦(OAM : Orbital angular momentum)は,波面の螺旋周期に情報を乗せることで多重化が可能であり,大容量伝送のキーコンポーネントであるマルチコアファイバとの整合性にも優れているため,将来の多重化技術としての期待が高まっています。
しかし,光通信において広く利用されている光回路においては,その構成要素の導波路型デバイス群がTE/TMモード光でのみ動作するため,光渦との親和性は決して高くありません。そのため我々は,従来型の光回路の一部をトポロジカルフォトニクス系に置き換える(TPICs : Topological Photonic Integrated Circuits)ことで,光回路内において光渦伝搬をはじめとした各種制御を行うことを目指しております。
トポロジカル絶縁体やワイル半金属などにおける電子系のトポロジーをフォトンの系にトレースする試みは,トポロジカルフォトニクスと呼ばれ,近年急速に進展しています。フォトニクスにおけるトポロジカル相の発現は,磁気光学効果による時間反転対称性の破れを利用したアプローチ,時間/空間領域において周期的な変調をかけたFloquet 的アプローチ,内部構造の空間的対称性を利用した時間反転不変性をベースとしたアプローチ,の3種類に大別されます。特に,3番目のアプローチの代表格であるC6対称性を有する誘電体が蜂の巣格子状に配列された構造におけるZ2トポロジーの発現は,光回路との整合性に優れていることから,回路内において光渦を制御する上でもっとも有望なアプローチといえます。
RESEARCH 3
シリコンフォトニクス ー光渦多重通信ー
100ギガビット光ネットワークの本格的な導入に伴い,コヒーレント光通信技術が実用レベルに達しています。そのような中,通信容量のさらなる増大に向けて「光渦多重方式」の導入を目指しており,それに向けたコンポーネントの開発を行っております。光渦は,等位相面が一波長で2πの整数倍(2π×m)になるように分布しており(mは光渦モードのチャージ数と呼ばれる),チャージ数の異なるモードは互いに直交性があることから,理論上はそれらを無限に多重化できます。
現在の光渦多重通信は,マルチプレクサ・デマルチプレクサとして,空間位相変調器を用いた比較的大きな光学系を組む必要があり,光ファイバシステムに用いる系としては実用的ではありません。これを受けて,シリコンフォトニクスを用いたチップ化を,東京工業大学と産業技術総合研究所で進めてきました。
開発した光渦多重器は,「スターカプラ」および「光渦ジェネレータ」の2領域から構成されており,入力光をスターカプラにおいて特定の位相差をもった複数の光に分けた後,それらの位相差を維持したまま,光渦ジェネレータから光を取り出すことで,光渦を生成します。本素子は5つの光渦をクロストーク25dB程度で合分波でき,波長分割多重や偏波多重などの従来の多重方式も併用可能なことから,次世代の大容量データ伝送のコアデバイスとして期待されます。
RESEARCH 4
化合物フォトニクス ー光インターコネクションー
Si LSIの歴史は,スケーリングという概念に基づく技術進化の歴史です。ITRSによれば2022年までにチップ容量は1Tbitに達し,トランジスタのゲート長は4.5nm程度まで小さくなると予想されています。このような現状において,SoC (System on Chip)に代表される一括機能集積は,プロセッサの処理能力や消費電力を大幅に改善させますが,同時に金属配線におけるRC遅延がシステム全体を制限するようになります(配線ボトルネック)。近年の電子回路技術の発展は目覚しく,この問題をクリアすべく様々な方法が考案されています。
そのような中,光による超高速伝送は,金属配線で見られるような伝送遅延・電磁波干渉などの問題が生じない上,多重化による大容量伝送も可能となることから,次世代の配線技術として期待が高まっています。光配線における指標としては,現状の電気配線の性能も鑑みた上で,「光源」「光伝送路」「受光素子」の一連の光コンポーネントをLSI上に構築し,100fJ/bit以下の消費電力で伝送を行うことが必須とされています。
上記課題を克服するため,薄膜光回路をLSI上にハイブリッド実装する技術を開発しています。100fJ/bitという低消費電力動作を目指して作られたIII-V族化合物半導体の薄膜光回路をSiプラットフォーム上に構築することで,最上部の金属配線層を光配線層に置き換えます。本技術のポイントはIII-V族化合物半導体からなるコア層を薄膜(Membrane)として形成し,コア層上下を低屈折材料(SiO2または空気)によって挟み込む点にあります。これにより,コア層の光閉じ込めを増強させ,一連の光素子の性能を大幅に向上させることができます。
RESEARCH 5
フェムト秒レーザー加工を用いた3次元フォトニクス
光通信は,80年代の光ファイバ普及による大陸間長距離伝送から始まり,家庭用の Fiber to the Home(FTTH),コンピュータにおけるボード間通信と,短距離にも適用が拡大しています。光を用いた超高速伝送は,電気配線における回路遅延・伝送損失・電磁波干渉(EMI)などの問題を回避することができる上,多重化による大容量伝送も可能になります。そのため今後は,プロセッサとメモリ間,分散プロセッサ間の情報転送など,更なる短距離のインタコネクション技術に,光が利用される可能性があります。
そのような中,将来的な光インターコネクションに向けた実装技術として,フェムト秒レーザー加工を用いた3次元フォトニクス技術の開発を行っております。
多光子吸収光造形による紫外線硬化樹脂の三次元ナノ・マイクロ加工は1990年代後半より行われていますが,近年,これが実際に光インターコネクションに向けた実装技術となり得ることが示されました。本技術を用いれば,フェムト秒レーザーを挿引するだけで三次元のポリマー細線を任意の場所に形成可能となり,後工程で各種光デバイスをフレキシブルに接続可能となります。Si光回路の端面に三次元ポリマー細線やポリマーレンズを造形することで,他のチップや光ファイバとの接続が可能となります。